父とハンチントン病②
__ハンチントン病は50%の確率で子に遺伝する
前回書いたこの文章は、まぎれもない事実である。
私がこの事を知ったのはいつだっただろうか…
少なくとも、小学生のうちにはハンチントン病の全てを把握していた。
はっきりとした記憶がないほど、幼い頃に知ったのは確かである。
また遺伝した場合、この病気は下の世代に行くにつれて重症化する。
ある染色体が一定の長さ以上に伸長するとこの病気を発症するのだから、当然その染色体が長くなればなるほど発症する時期は早くなり、重症化する。
そして、病気が遺伝するときこの染色体は必ず親よりも長くなっている。
治療法は無いのに、どんどん重症化していく病気…
それがハンチントン病だ。
ハンチントン病は優性遺伝の法則に基づくので、その染色体を父母どちらから受け継いだかによって発症するかどうかが決まる。
私の場合、父から受け継いでいれば100%発症するし、母から受け継いでいれば絶対に発症しない。
どちらから受け継ぐかは2分の1の確率だから、子に遺伝する確率は50%になるわけだ。
そして、こちらは理由がはっきりしないのだが、ハンチントン病は父から受け継いだ場合に早期発症、重症化しやすいらしい。
これらの情報を踏まえれば、私はとりあえず40歳くらいまではハンチントン病に注意して様子を見なければならないだろう。
その年齢まで特に何も起こらなければ、めでたいことに私は生涯発症しない。
つまり、遺伝していないというわけだ。
逆に遺伝しているのなら、かなり重症化することが考えられる。
発症する時期が今であってもおかしくはないのだ。
では、父の他にハンチントン病を発症した家族がいるのか?
実は、誰一人いないのである。
これまで典型的な経過をたどってきた父だが、ここだけは珍しいと言われた。
診断された当時から今まで、まだ誰も父以外に発症した人はいない。
祖父母に聞いてみても、特に思い当たるような人はいなかったと言う。
この場合、考えられるのは2つのパターンだ。
1.父の家系ではなんとなくハンチントン病の気はあった。
しかし、染色体の伸長があまり進んでいなくて今まで誰も発症せずに済んだ。(いわゆるグレーゾーン)
そんな中、父だけが特に伸長して発症した。
2.今までハンチントン病の気は全く無かったのに、父が最初のハンチントン病患者になってしまった。
何らかの原因で、染色体が異常に伸長した。
可能性が高いのは1のパターンだ。
下の世代になればなるほど重症化するのだから、子どもが先に発症するというのはそこそこ多い話である。
2のパターンは、特にアジア人では極めて珍しい。
ハンチントン病は、欧米人には一定の割合で見られる病気だがアジア人にはほとんど見られない病気だ。
もしこのパターンだったとしたら、とんでもなく不幸だとしか言いようがない。
ハンチントン病患者の子どもにとって、このような事実は将来を大きく揺るがす。
私もそうだ。
単に父親という存在が歪められるだけではない。
治療法は無く、いつ発症するかも分からない、そもそも発症するかどうかが分からない病気と長い間向き合わなければならないのだ。
しかし、この病気は遺伝子検査をすることで発症するかどうかを調べることができる。
私はまだ遺伝子検査をしていないし、これからもするつもりはない。
まず、未成年者は遺伝子検査ができないようだ。
成人すれば(私が18歳になれば?)、本人の意志で検査ができるようだが、そもそもこの病気を発症すると知ったところで手の打ちようが無い。
だって、治療法は無いのだから。
遺伝子検査が必要なのは、子どもを考えたタイミングだと思う。
この病気のことを知っていて子どもを作るのは、個人的には無責任だと思う。
女子は自分の子どもは必ず認知するので、なおさらだ。
私は、最初から子どもは作らないと決めている。
それは、ハンチントン病の遺伝(私の子どもに遺伝する確率は25%)のせいだけではない。
これまで書いてきた発達障害のこと。
自閉症などは、かなりの割合で子供に遺伝する。
これは明確なデータがあるわけではないが、客観的な検証もされているし、私の身の回りでもそういう傾向があるのだ。
それに加えて、私の子育てに不向きな性格や体力の無さ。
そもそも相手がいなさそうな気もするが…w
しかし、万が一のときに備えるのは必要だろう。
いろいろ考えたときに、やはり最大の決め手となるのがハンチントン病の遺伝だ。
幸いにも、私には兄弟がいない。
だから、最悪私に遺伝していたとしても、私さえ子どもを作らなければハンチントン病の遺伝が続くリスクはかなり少なくなる。
(ダントツで可能性が高いのは私だけだが、叔父やいとこ、甥っ子姪っ子がすでにたくさんいるのでここに遺伝する可能性も若干ある)
この負の連鎖を止められるかどうかは、すべて私の意思次第なのだ。
だから、私は子どもを作るべきではないし、作ってはいけない。
私はもともとそうやって割り切れる人だから良かったが、子どもを産みたい派の女子だったらどうか。
これこそ、その人の人生設計は崩れて将来を大きく揺るがされるだろう。
これがハンチントン病の遺伝に関する事実と、当事者の子どもとしての感想である。
実際、いつ発症するかも分からない病気と向き合うのは怖さがある。
怖いから、遺伝子検査を受けないのだ。
しかし、ハンチントン病にも希望の光が見え始めた。
私はこの記事を書き始めるまで、しばらくハンチントン病から遠ざかっていたので見失っていたことが多かった。
いくつか紹介したいと思う。
ハンチントン病は、日本では患者数の少ない珍しい病気である。
それに治療法がないことから、国指定の難病にもなっているのだが知名度は極めて低い。
今、国の難病指定を受けているハンチントン病患者は全国で900人くらいかな?
また、症状がまさに奇病のそれなので今まで当事者やその家族が声を上げることも少なかった。
だから、よくある患者の会みたいなものはハンチントン病には存在しないと思っていた。
しかし、実際には20年以上前からそのような集まりが存在していた。
日本ハンチントン病ネットワーク
https://www.jhdn.org/
これだ。
数年前に調べたときはホームページが見つからなかったが、しっかり存在していたのだ。
このような集まりがハンチントン病にもあると知って、私は少し安心した。
それだけではない。
未だに見つからない治療法。
しかし、大阪大学の研究によってハンチントン病を根本から治療する低分子化合物が見つかったのだ。
ハンチントン病の根本的治療へ道ひらける
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20200215_1
難しい内容を噛み砕いて説明してくれているので、ぜひ読んでみてほしい。
この化合物は、ハンチントン病の直接の原因である塩基配列の異常なリピートを減らすことができる。
__異常に伸びたリピートを短縮できるという発想すらありませんでした。
と記事の中で述べられている通り、この研究はハンチントン病だけでなく遺伝子治療全体にとって画期的なものらしい。
どういうことかというと、これまで遺伝子治療というのは、何か異常な遺伝子があったときにそれを正常な遺伝子に置き換えるというのが基本だった。
だから、異常な部分を直に改善できるという発想は私たちにとっては自然なものだが、その道の人にとっては考えられない発想だったという。
画期的な発見がハンチントン病の研究でされたというのは、嬉しいことだ。
一般的な薬品が完成するまでの期間を考えると、実用化されるまでにはまだ時間がかかる。
ハンチントン病発症のピークである30代までは、あと13年くらい。
スムーズにいったとしても、結構ギリギリになってしまうというのが現実だ。
それに、必ず実用化ができるという保証もない。
しかし、これまで何の手がかりも無かったことを考えれば、ハンチントン病の治療にとって大きな光となることは間違いないと思う。
これが、私がハンチントン病について知っていること、父の発症を通して考えたことと現状の全てである。
このブログを始めてから書こう書こうとばかり思うだけで、なかなかはっきり書くことができなかった父のこと。
しかし、受験生としてけじめをつけるためにブログを中断すると決めてから覚悟もできた。
私が今まで向き合ってきた最大の障害をもう一度見つめ直し、文章にした。
ハンチントン病はとても患者数の少ない病気であり、個人の体験談をネット上にアップしている人は少ししかいない。
知名度なんて全くない私だが、それでも一個人としてネット上に記録を残したいと思った。
それが、私が今までで最長の記事を2本も投稿した真意の一つである。
これまで苦しめられてきたことが多かったが、だからこそ今の強い私がいる。
心の底からそう思えるようになったら、私も成長したと言っていいのかな…?